重要:イングランドの支援体制や支援につながるまでのプロセス・関わる職種の名称は自治体ごとに大きく異なります。こちらに記されている全ての情報はイングランドの法律ならびに政府が開示している規範やガイダンスをもとに作成されており、ごく一般的な流れの解説をおこなっております。また、現地において信頼性の高いとされる情報リンクを許可を得たうえで掲載しております。より個別的な支援詳細については必ずお住いの自治体の情報を確認してください。(最終更新日:2024年12月8日)
Early Years(幼児期)の成長を支える制度:EYFSについて
Early Years Foundation Stage(EYFS)は、出生から5歳(レセプション)までの子供が質の高いケアと教育を受けられるようにするための法的な枠組みです。学習、発達、安全に関して保育施設・保育者が満たさなければならない基準が設定されています。EYFSフレームワークは、特別教育ニーズのある児童に対する支援を義務付けています。
保育施設や保育者はこの枠組みに沿って保育を提供する必要があります。
2024年1月にはこのEYFSの法的枠組みがチャイルドマインダーとその他の保育施設用に分けられ明記されています。
詳しくはこちら 最新版EYFSはこちら
※厳格には「保育施設」「保育者」ではなく「早期教育提供者・早期教育提供施設」と訳すことがより正しいですが、イメージのしやすさを考慮し、日本での施設名になぞらえて解説しています。
Early Years Outcomes:保育施設やチャイルドマインダー、学校(レセプション年)はこのガイダンスを使用し、子どもが年齢相応の水準で発達しているかどうかを評価できます(非法定文書)。Early years Outcomesについての詳細はこちら
Development Matter:子供の一般的な発達や学習の過程把握し、保育士、チャイルドマインダー向けのガイダンス。EYFSと併用して指針として使用されます(非法定文書)。詳しくはこちら
Progress check at age 2: EYFSでは、子供の発達を生後 24 か月(2歳)から 36 か月(3歳)の間に評価することを法的に定めています。項目は主に「コミュニケーションと言語」「身体的発達」「個人・社会性・感情発達」に焦点を当てています。評価者はその子どもに関わる「キーパーソン」「プラクティショナー」であることが望ましいと規定されています。(主に保育園などの施設のスタッフによって行われることが多いとされています。)子どもが保育園に通っていない場合はHealth Visitorなどの専門家から発達のチェックを受けます。この評価により、または事前に明らかな発達の遅れの可能性がある場合、必要に応じて保育施設のSENCOや地域SENCO(地方自治体に配置されているSENCO)、言語聴覚士や心理士、小児科医、児童精神科といった専門家からの多角的な評価・連携を受け、より詳細な支援に向けて考慮されていくことになります(※すぐに専門家のアセスメントを受けることができるという意味ではありません。)お住いの地方自治体(Local Offerにて相談先の詳細が提供されていることがあります)に相談することもできます。詳しくはこちら
EYFS終了時の評価 – EYFSプロファイル:EYFSプロファイルとは、子どもが5歳になる学年の終わり(通常はレセプション年)に実施される法律で定められた評価のことです。このプロファイルは特別な支援の必要がある子どもにとっては、具体的なニーズを特定する助けとなります。EYFSが終了すると、ナショナルカリキュラム(イングランドの教育カリキュラム)に教育プロセスが移行します。
Early years foundation stage profile /(教育省ページ)
保育におけるKey Personの割り当て:特別な支援ニーズの有無にかかわらず、EYFSに基づき、子どもにはKey Person(担当者)が割り当てられる必要があります。その役割には、各子どものケアが個別性を基に調整されるよう支援すること、子どもの環境適応への支援、子どもとの安定した関係の提供、保護者との関係構築などが挙げられます。子どもに関する相談窓口の1つでもあります。
SEND実践規範における規定
Maintained School、Academy、Maintained Nursery School、および地方自治体から資金提供を受ける全ての早期教育施設(私立保育施設なども含む)は、SEND実践規範を考慮することが法的に求められています。
保育施設のSENCOについて
SENCOは、特別支援についての相談や支援といった役割を担うコーディネーター・中心的存在です。保護者はSENCOに、子どもについて抱える不安について相談することができます。Maintained Nursery(地方自治体によって資金提供を受けている保育園)にはEYFSフレームワークおよびSEND実践規範に基づきSENCOの配置が義務付けられています。Maintained以外の保育施設(Independent Nursery:私立保育園など)においてはSENCOの法的に明確な配置は定められておらず「推奨」にとどまりますが、現状では多くの保育施設にSENCOが配置されています。Maintained NurseryのSENCOに求められる資格要件はより厳格です。資格要件参考資料はこちら/ NPQ for SENCOs / 教員資格(QTS)
※チャイルドマインダーにおいては現段階でSENCOの配置が義務付けられておらず、チャイルドマインダー自身がSENCOの役割を持ったり、チャイルドマインダーが特定のSENCOの役割を持つ人と連携している場合もあり状況によって異なるため、各々で確認する必要があります。
地域SENCO(Area SENCO)について
地方自治体は地域の保育提供者(施設・スタッフ・チャイルドマインダーなど)がSENを持つ子どもを支援する十分な専門知識と経験を持つよう確保すべきと定められています。地方自治体は、これを満たすために地域SENCO(Area SENCO)をその自治体に設置することがあります(義務ではありません)。
保育施設のSENCOは施設の子どもや保護者、スタッフにより直接的に支援介入を行うのに対し、地域SENCO(Area SENCO)はその地域でより包括的な助言や指導を提供します。具体的には、複数の施設を対象にしたトレーニングや相談、保育施設、保育施設から義務教育への移行時サポート、SENCOの指導などがあります。チャイルドマインダーは自身にSENCOの配置義務はないものの、必要時は地域SENCOと連携し、助言やサポートを得ることもできます。
特別な支援(SEN)が必要な子の評価
保育施設の種類に関わらず、上記それぞれのEYFSの枠組みに基づき、子どもへカリキュラムが提供されます。その中で子供の学習・発達到達度(マイルストーン)に遅れや問題があると判断された場合、子どもはSEN(特別な支援ニーズ)の支援対象となりえます。
支援が必要である判断された場合、SENCOと親は面談を行い、SENCOや保育園スタッフのアセスメント、すでに特別支援に関連するような外部機関や医療機関から評価を受けている場合は、それらも参考にしながら【Assess-Plan-Do-Review】の段階的アプローチに沿ってサポートが提供されていきます(SEND 実践規範; Chapter5)。
この段階的なサイクルを継続的に繰り返し、子どもにとっての最善策を見直しながら支援を継続します。なお、これらのサポートには保護者の通知および同意が必要となります(Maintained Nursery は必須)。
1.評価(Assess)
子どもが特別支援が必要な可能性がある場合、スタッフは保育施設のSENCOおよび子どもの保護者と協力し、子どものニーズの評価(アセスメント)を行います。このアセスメント内容は、定期的に見直されるべきとされています。子どもの状況に改善が見られない場合、医療、福祉、または外部機関(発達支援関連:地方自治体のチーム、医療関連、言語・作業療法士など)によるより専門的な評価が求められることがあります。これらの専門家がすでに子供に関与している場合は、専門家のアセスメントを参考にする場合があります。
2.計画(Plan)
SENCOおよびKey Personを中心とする保育施設スタッフは保護者と協議のうえ、個別支援計画を作成します(保育施設によってこの計画名称は異なります)。SEND実践規範には「計画には子どもの意見を考慮に入れるべき」「保護者は支援計画の策定に関与し、適切な場合には支援を強化したり、家庭での進捗に貢献したりすることが求められる」と記されており、保護者はその計画内容を確認し、実施に同意する必要があります。支援計画は信頼性の高いアセスメント・証拠(エビデンス)に基づいて作成され、適切なスキルと知識を持つ従事者によって提供されるべきと規定されています。
一般的とされる計画の主な内容は以下の通りです:
- アセスメント内容
- 具体的な支援
- 期待される結果・目標
- レビューの日付など
3.実行(Do)
保育施設においてSENCOは個別支援計画の実施に関わるスタッフと計画内容を共有し、連携を取りながら支援を行う必要があります。
通常は子どものキーパーソン(担当者)が、日常的に子どもと関わる責任を担うとされています。SENCOの支援・監督を受けながら、個別支援計画を実行します。SENCOは、実施された計画内容に対する子どもの反応を評価し、必要時助言などを行い、直接ケアにあたるスタッフを支援します。
4.振り返り・見直し(Review)
SENCOやスタッフが実施した個別支援計画の結果を基に計画のレビューを行います。レビューの際にも、スタッフとSENCOが保護者と協力し面談などを通して、計画作成時同様、子どもの意見も考慮しながら評価していきます。ここで計画内容の改善が必要と判断された場合は新たに修正案を作成し、計画の実行、レビューというサイクルを繰り返していきます。支援の効果と子どもの進捗への影響は、計画時に決められた日程に沿って見直されるべきとされています。状況が悪化する場合は、レビューの日付が早まる場合もあります。計画が変更される都度、保護者はレビューに基づく新しい計画に同意する必要があります。
上記の段階に基づいて支援がなされているにもかかわらず、子どもの状況に変化が見られない場合、保育園の資源を大きく超えて支援を必要とする場合には、EHCPの取得に向けて進むというプロセスを辿ります。また、保育園は同時にSEN Inclusion Funding(SENIF:SENの子どもたちを支援するために、幼児教育施設が利用できる資金)の申請も行うことがあります。この資金提供についてもSEND実践規範に規定されていますが、詳細な運用については地方自治体が担っています。
SEN Information Reportおよび SEN ポリシー
SENポリシー:
保育施設の特別支援に関する方針や支援手順が記されたものです。
SENのサポートに関する施設の目標や方針、安全管理、親や外部機関との連携方法、スタッフの研修についてなど、施設の文化やSEN支援の枠組みについての情報が含まれています。主にスタッフ、ガバナーや保護者に向けて、施設のSENに対するアプローチを包括的に理解してもらうことを目的としています。Maintained Nursery 以外の保育施設では法的な作成義務はありませんが、多くの保育施設で作成が行われており、ホームページで確認が可能な場合が多いです。(保育施設ごとに要確認)
SEN Information Report:
保育施設が特別教育ニーズ(SEN)のある子どもたちを具体的にどのように支援しているかを説明した文書です。施設の支援体制・提供される環境や子どもが利用可能なサポートがより詳細に記述されています。保育施設のウェブサイトに公開され、毎年更新される必要があります。Maintained NurseryにはSEN Information Reportの作成および公開が法律により義務付けられています。このレポートにより保護者がより詳細な情報を得ることができるほか、地方自治体にもこの情報を共有することで、自治体と施設間での連携の強化なども目的としています。
(施設によっては、SEN ポリシーとSEN Information Reportが一体となり作成・開示されている場合もあります。)
SENポリシーとSEN Information Reportの違い:
SENポリシーは保育施設のSENに関しての方針や支援の全体像を示す基本的な枠組みです。一方で、SEN Information Reportは、ポリシーに記載されている内容が実際にどのように実行されているかをより具体的に説明するための文書です。(Children and Families Act 2014 Section69およびSEND実践規範)
※入園している・入園を希望する施設のウェブサイトで確認すると、イメージがつきやすいと思います。
(Maintained Nursery以外の保育施設には作成義務はないため有無については要確認)
以下は、SENポリシーとSEN Information Reportの違いを表にまとめたものです。テーマが重複していることもありますが、取り扱っている具体的な内容が異なります。
項目 | SENポリシー | SEN Information Report |
---|---|---|
目的 | SENに対する施設の理念、戦略、目標を示す | SENポリシーが実際にどのように実施されているかを示す |
内容 | ・施設のSENに関するミ ッションとビジョン ・法的義務や関連ガイド ライン ・SENに関わるスタッフ の役割と責任 ・モニタリングと評価の 方法 ・苦情対応 など | ・対象となるSENの種類 ・SENの特定とニーズ評 価の方針 ・保護者との相談と参加 方法 ・施設が提供できるSEN のある子どもたちへの 教育支援方法 ・施設が提供できるカリ キュラムや環境の調整 ・スタッフの専門知識や トレーニング ・支援の効果の評価方法 ・他の子どもとの活動へ の参加支援 ・外部機関との連携 ・保護者からの苦情対応 など |
対象者 | 主にスタッフ,ガバナー、保護者 | 保護者、地方自治体 |
更新頻度 | 法的義務はないが1~3年に一度の見直しを推奨 | 毎年更新の義務あり |
公開場所 | ウェブで公開されている場合が多いが、保育施設によっては内部のみで共有されている場合もあるため要確認。 | 施設ウェブサイトで公開 |
役割 | ・SENの全体的な方針を 示す ・施設の持つSENの方針 関して包括的に理解を するためのもの | ・SENポリシーの実施状 況や施設が持っている 支援体制をより具体的 に示す ・実際にどのように自分 の子供が支援されるか を理解するためのもの |
参考リンク
Early years: guide to the 0 to 25 SEND code of practice
(政府:教育省および保健社会福祉省)
Early years foundation stage (EYFS) statutory framework(政府:教育省)
Early Years Foundation Stage Profile 2024 handbook(政府:教育省)
Children and Families Act 2014 Section69(政府:法律ページ)
Mandatory qualification for SENCO(政府:教育省)
NPQ for SENCOs(政府:教育省)
Qualified teacher status (QTS): qualify to teach in England(政府:教育省)
Sources of income for early years providers(政府:教育省)
信頼性の高い現地サイト
How should your nursery, school or college help?(IPSEA)
What does SEN Support in the early years mean?(IPSEA)